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人工呼吸器のトラブル
日本医療機能評価機構の医療事故情報収集事業により集められたデータによると、2010年から2014年度までの、人工呼吸器に関連した事故やトラブルは、年間150~200件程度で推移しています。そして、トラブルにより治療が必要な重篤な状態に陥った事例または、死亡に至った事故は、年間10件程度で推移しています。
報告されていないトラブルも多くあるため、実際はこれの倍以上のトラブルが発生していることが考えられます。
人工呼吸器のトラブルの種類別の分類を以下のグラフに表します。

(日本医療機能評価機構2009.01~2009.12)
このように、人工呼吸器のトラブルの大半は、呼吸回路に起因しています。
どのようなトラブルがあるのか、具体例を紹介します。
呼吸回路
・呼吸回路の組み立て間違い
・呼吸回路に亀裂が入っていて空気が漏れていた。
・呼吸回路の接続部が緩くて、空気が漏れていた
・ウォータートラップチャンバーの接続が緩くて、空気が漏れていた
人工呼吸器の使用直前には、始業点検により、呼吸回路のリークテストを実施します。その為、呼吸回路のリークがある回路が患者に使用されることは、基本的にありません。
ただし、人工呼吸器使用中に回路の接続が緩くて、外れたり、また、ウォータートラップにたまった水を破棄した後など、呼吸回路に再接続したときなどに、接続が甘くて、リークが生じる危険性があります。また、リユーザブル回路では、回路の老朽化により、回路に亀裂が入ることもあります。
私自身は、呼吸回路の組み立てを誤ったトラブルを何度か聞いたり発見したことがあります。幸い、患者には影響がありませんでしたが、ちょっと間違えれば大変な事故につながる恐れがあります。
設定・操作部
・人工呼吸器の設定は、医師の指示でしか変更することができません。指示の聞き間違えや、操作ミスによる設定ミスなどが主なトラブルになります。
電源
・電源に対するトラブルといえば、数年前に循環補助装置のコンセントを看護師が抜いて患者が死亡する事故が発生しました。人工呼吸器でも同様のトラブルが発生するリスクがあります。電源コンセントや電源周りについての説明は、スタッフ全員が周知しておくように指導する必要があります。
酸素供給
・酸素供給については、O2セルを定期的に校正していなかったことにより、酸素濃度の表示値が以上になることを経験したことがあります。
その他にも、配管が故障したり、設定ミスなどのトラブルも考えられます。
本体
・本体に関するトラブルは、結構多く発生するトラブルと思います。原因不明のシステムエラーなどたびたび経験したことがあります。
・原因不明による人工呼吸器の突然停止といった、恐ろしいトラブルも多くの施設で経験しているようです。
『人工呼吸器の突然停止事例に関する情報提供のお願い』といって、日本呼吸療法医学会より人工呼吸器が突然停止した場合、情報提供をするように各方面の学会に連絡が来ています。
最近、人工呼吸器が突然停止するトラブルが不特定多数の機種で発生しているようです。メーカーの方も原因不明ということで、対処しきれていません。そこで、日本呼吸療法医学会により発生状況を集計して、できる限り解析をするということらしいです。
もし、そのような経験がありましたら、日本呼吸療法医学会のホームーページに『人工呼吸器の作動提示事例症例報告』のバーナをクリックして、『症例報告』の『登録はこちらから受け付けております』をクリックして、登録フォームより登録お願いします。
以上で、人工呼吸器に関する事故の紹介は終わります。
次は、人工呼吸器の事故を防ぐ方法について紹介します。
事故を防ぐには
1.生体情報モニタを使用する
人工呼吸器の回路外れや閉塞を発見するために、人工呼吸器とは別に、生体情報モニタ(パルスオキシメータ,カプノメータなど)を併用する。
2.人工呼吸器の適切な使用を促す
注意喚起シールを貼る
注意喚起シールの作製して貼り付ける。(ウォータートラップに、リーク注意などといったシールを張ったり、人工呼吸器か色の組み立てを誤らないように吸気側に吸気、呼気側に呼気といったシールを貼るなどして、操作者がわかりやすくなるように工夫する)
簡易マニュアル
取扱説明書とは別に、設定や警報対処など基本的な操作がわかるマニュアルを設置する。
3.保守点検を確実に実施する
保守点検を適切に実施するために、定期点検が終わったら『定期点検済み』といったシールを張り付ける。
などなど、今回紹介したのは、安全対策の一部です。人工呼吸器の安全使用に対するガイドラインは、いろいろな学会より作成されていますので、下記のリンクを参照ください。
急性呼吸不全に対する比侵襲的陽圧喚起システム安全使用のための指針
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