呼吸リハビリテーションは、「慢性期疾患」「急性疾患」「慢性呼吸器疾患の急性増悪」など、全ての呼吸疾患患者が対象となります。
急性期呼吸リハには、「ICUにおける超急性期の呼吸リハ」と「一般病棟における急性期から回復期」にかけるリハがあります。
今回は、「ICUにおける超急性期の呼吸リハ」について要点をまとめました。
テキストのページ数は、8ページもあります。要点・概要のみまとめているので余裕があるときにテキストも読むことをお勧めします。
目次(クリックすると移動します)
超急性期呼吸リハとは
超急性期呼吸リハとは、『急性期呼吸器疾患におけるICUでのリハビリ』のことです。
急性期呼吸理学療法を、侵襲時の呼吸器系の変化に対応して適切に処置を行うことにより以下の効果を期待します。
- 酸素化と喚起を確保し人工呼吸器に関連した合併症や全身合併症を予防する。
- 人工呼吸器からのスムーズな離脱を目指す。
- 早期の離床を促進する。
- 呼吸管理に伴うストレスを最小にする。
- 侵襲に伴う呼吸状態を回復させる。
急性期リハのエビデンス
『ARDSにおける伏臥位(ふくがい)療法、挿管人工呼吸器症例に対する早期離床』は、様々な効果が認められています。
急性期呼吸リハの対象疾患
急性期呼吸理学療法の対象疾患は、多数あります。
- 術後の患者
(胸部・腹部手術後、大侵襲手術など) - 呼吸管理を要する急性疾患
(肺炎、ARDS、肺水腫を伴う心筋梗塞、重症膵炎など) - 意識障害・排淡困難を伴う急性疾患
(脳系の疾患) - 胸部・頭部・多発外傷
- 慢性呼吸器疾患の急性増悪
(COPD、喘息、間質性肺炎、気管支拡張症)
いろいろありますが、なんとなくイメージできますね。肺疾患以外にも、膵炎、意識障害、外傷なども含まれます。そこを注意して覚えましょう。
急性期リハに用いられる手技
体位管理
体位の変更により、酸素化・喚起仕事量の軽減に役立ちます。以下の体位が用いられます。(血流は重力により下側にたくさん流れます。)
- 起座位・・・横隔膜が下がりFRCを増加。肺の虚脱を防ぐ
- 伏臥位(ふくがい)・・・腹を、床に付けて寝る体位のこと。解剖学的に、背側で含気低下をしやすいが、それを予防できる。ARDSなどの肺コンプライアンス低下に役立ちます。(参照:肺循環の特徴)
- 側臥位
- 前傾側臥位
リクルートメントと気道管理
リクルートメントと気道管理は、『虚脱した肺胞を膨らませてやり、気道内の分泌物を除去する』ことを目的とします。
以下の手技で行われます。
- 適切なPEEPとポジショニング(体位管理)手技
★ターゲット領域の含気の改善 - マニュアルハイパーインフレーション、リクルートメントマニュバー
★虚脱肺の含気の改善 - マニュアルハイパーインフレーション+呼吸介助
★分泌物の排出促進
早期離床
早期離床の定義は、『積極的かつ早期(最初の2~5日目)から開始される理学療法』と定義されます。
- 重症患者に適応されます。
- 四肢の受動(動かすこと)、自動運動・座位、立位、歩行訓練、エルゴメーター、電気刺激(EMS)
- 筋力の維持・回復、アウトカム(治療効果・死亡率の低下)を改善します。
急性期呼吸リハの実施の形態
専従理学療法士のICU常駐
急性期呼吸リハは、患者の負担軽減のため短時間・頻回施行が原則です。その為には、専従理学療法士をICUに常駐させる必要があります。
また、ハイリスク患者にもリハビリを行うので臨床工学技士・看護師と協力しながら実施する必要があります。
呼吸管理全体に対する助言
急性呼吸リハは理学療法だけでは、成功しません。
「鎮静コントロール、人工呼吸器からのウィーニングプロセス、全身管理など」と理学療法を組み合わせて行う必要があります。
以下についても、他の医療スタッフに提言することが必要です。
- 鎮静頻度
- 全身管理
- 栄養・水分・電解質の管理
- 人工呼吸器の設定・離脱の時期
- 感染コントロール
急性期呼吸リハ実施の実際
酸素化の障害とコントロール
まずは、酸素化を無意味化するシャントについて考慮が必要です。つぶれた肺に、いくら酸素を送っても意味がありません。

シャントの改善は、PEEPをかけて高い機能的残気量(FRC)を維持することが必要です。
特に「ARDS、肥満、浮腫の目立つ患者」には、高いPEEPが必要です。
ポジショニング(起座位)は、FRCを増大させる効果があります。側臥、前傾側臥、伏臥は、背側の喚起を確保します。虚脱した部位は、前述した「マニュアルハイパーインフレーション、リクルートメントマニュバー」を行います。
換気の障害とコントロール
人工呼吸器からの離脱の為には、換気を妨げる因子を取り除くことが必要です。
<換気をさまたげる因子を取り除く>
体感の浮腫、過剰なPEEPによる弾性仕事量の増大、気道のれん縮、浮腫による気道抵抗の増大、発熱、アシドーシスによる喚起需要の増大、死腔率の増大
<死腔率の増大についてさらに詳しく>
死腔率の増大は、不均等換気・広汎気腫化、荷重側肺障害などにより発生します。荷重側肺障害は、心原性肺水腫、ARDS、誤嚥性肺炎で急速進行します。
レントゲンでは見逃すことがあるので、疑わしい場合は、積極的に胸部CTを撮影することが必要です。
抜管に向けてのサポートと失敗の防止
<抜管の失敗の定義>
48時間以上挿管人工呼吸された症例のうち、抜管後「72時間(3日)あるいは48時間(2日)以内」に再挿管された場合をいいます。
<抜管の失敗の影響>
- 人工呼吸器管理日数延長
- ICU滞在日数延長
- 生命予後の悪化
<抜管前評価>
以下の「人工呼吸器の離脱を妨げる因子」がないことを確認して、自発呼吸トライアル(SBT)を実施する。
- 頭蓋内圧亢進・意識障害
- 循環動態の不安定さ、コントロール不可の心筋虚血
- 筋弛緩薬の継続使用
- 重篤な酸素化の障害、頻呼吸
<SBT>
SBT(spontaneouse breathing tarial)とは、自発呼吸トライアルの略称です。spontaneouseは、自発という意味で、SBTは『呼吸器を外して、自分で呼吸してもらうように試すこと』をいいます。
SBT中は以下の項目を観察します。
- SBTで30分間の低圧CPAPモードでRR>35の頻呼吸をしないこと
(正常の呼吸数は10~20/分) - RSBI<100~105である
- 酸素飽和度の低下がない
- 頻脈や徐脈がない
- 30㎜Hg以上の血圧変動がない
- 心電図変化がない
- 呼吸困難・不穏
- 咳反射・咳溂力があること
- カフリークテストで上気道の開存があることを確認
VAPの防止
<VAPとは>
(VAP:ventilator-associated pneumonia)は、気管挿管中の患者に発症する感染症です。もっとも発生頻度が高く予後も不良です。
- 挿管人工呼吸器患者の8~20%に発生
- 48時間以上の長期人工呼吸管理で頻度が増加、長期になるほど発生頻度が上昇。
- VAPの死亡率は、20~50%、非VAP症例の2~10倍
- VAPは、人工呼吸日数、集中治療室在室日数を倍数させ医療コストを増大させる。
- VAPの起因菌は、『緑膿菌、アシネトバクター、MRSAなど多剤耐性菌』などが多く抗菌剤治療の効果が効かないことが多い。
- 多剤耐性菌によるVAPでは、死亡率は70%まで上昇する。
<VAPの防止>
- 早期抜管の実施と下気道への細菌流入防止(スタッフ全員が励行〔れいこう〕)を行う。このような取り組みをventilator (care) bundleと呼ぶ。
- ventilator (care) bundleでVAPの発生頻度に30~70%の減少が得られる。
- VAPは、無気肺から発生しやすい。その為、無気肺を積極的に解除することが非常に有効である。
ICU-AWの防止
ICU-AWとは
ICU-AWは、ICUで管理される重症患者に起こる全身筋力の低下です。7日以上管理で、25~50%、敗血症・MOF患者の50~100%に発生します。
発生すると、人工呼吸器からの離脱遅延、死亡率の増加、回復後の機能障害となります。
ICU-AWの原因
- 高血糖
- 安静
- ステロイド・筋弛緩薬の使用
- 炎症性サイトカインなど
ICU-AWを防止のためには
- 血糖管理
- ステロイドホルモン・筋弛緩剤の使用の制限
- 鎮静のできる限りの減量
- 四肢運動や早期離床
せん妄の防止
せん妄現状
ICU入室者の45~87%がせん妄を発症します。発生すると以下の結果を招きます。
- 6ヶ月後死亡率3.2倍
- 入院期間2倍
- せん妄期間が1日延びると1年後の死亡率は10%上昇
- せん妄は、ICUの重大な予後悪化因子
せん妄防止のために
せん妄防止のために以下の処置が推奨されます。
- せん妄のモニタリングを経時的に行う
- 鎮静薬の投与を最小限に
- 鎮静薬を止める時間を1日1回とる
- 積極的な人工呼吸からの離脱
- 療養環境を整える
- 早期からの離床
こうしたアプローチをABCDE-bundleと呼び、せん妄予防に効果的です。
〔第20回 呼吸療法認定士標準テキストP218表8-11より引用〕
まとめ
今回は、超急性期の呼吸器疾患のリハビリテーションを学びました。
「エビデンス、対象疾患、用いる手技、実施法、実施される手技、実施の実際」など内容が盛りだくさんです。少しずつでいいのでまずは、重要なワード(単語)から覚えていきましょう。
〔参考文献〕
認定講習会テキスト
PICU人工呼吸管理プロトコール IME
「排淡について」しばぶろぐ~神経内科PTの勉強したこと~
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