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始めに
開胸・開腹後の合併症の種類は、4つに分類されると前回紹介しました。今回は、その中の「肺胞でのガス交換障害」について詳しく説明します。
肺胞でのガス交換障害とは、何らかの原因により肺胞が障害されてガス交換がスムーズにいかなくなる状態です。
※肺胞でガス交換ができないイメージの画像を入れる
術後に肺胞のガス交換障害を引き起こす疾患は、「無気肺、肺炎、肺水腫、間質性肺炎」などがあります。
このページでは、それらの疾患について詳しく説明します。

肺胞でのガス交換障害の原因となる疾患
無気肺
①原因
- 気道内分泌物貯留による気管支閉塞
- まれに、気胸、胸水、腹部膨満などの周囲の圧迫、深呼吸の不足、高濃度酸素吸入による肺サーファクタントの分泌抑制
②病態
- 術後48時間以内の発生が多い。
- 主気管支より末梢の気道で発声する。
- 通常は、低酸素血症に伴う過換気で低二酸化炭素血症を伴う。
- 無気肺の範囲が非常に広いと高二酸化炭素血症になる。
③診断
- 低酸素血症による呼吸困難
- ときに胸痛の訴え。
- 浅くて速い呼吸、発熱
- 無気肺部位で打診上濁音
- 聴診上肺胞音の減少
- 胸部X線写真で不透明肺を確認。(閉塞が不完全な場合は確認されないこともある)。
④治療
- 低酸素血症に対して酸素吸入
- 分泌物貯留などの原因除去(体位去痰法、咳嗽の補助、気道内吸引)
- 上記治療で改善がない場合は、気管挿管による気道内吸引、陽圧喚起
- 術後肺炎
①原因
- 術後肺炎の原因は、無気肺と誤嚥。
- 原因菌は、肺炎球菌、ブドウ球菌、クレブシエラが多い。MRSA、緑膿菌も増加傾向。
- 術後の意識低下、喉頭反射低下や吸引性肺炎は、誤嚥性肺炎のことである。
②病態
- 濃性痰、発熱・呼吸不全となる。
- 初期は低酸素血症、重症化すると高二酸化炭素血症を伴う。
③診断
- 発熱、膿性痰で疑う。
- 胸部X線で不透明肺または、浸潤陰影
- 病変部の肺容積は増加
- 気道分泌物の培養で起因菌を同定
④処置
- 低酸素血症には、酸素吸引または人工呼吸療法
- 抗菌薬で治療
術後肺水腫
<術後肺水腫>
①原因
1.心原生
うっ血性心不全などにより、右心系の圧が上昇すると、それらに連動して肺・動静脈が亢進する。
2.非心原生(ARDSなど)
〔肺への直接的原因〕
- 胃酸の誤嚥
- 細菌性肺炎
- 吸引性肺炎
〔肺への間接的原因〕
- 敗血症
- 大量輸液
- 大量輸血
②病態
・間質性肺水腫などの初期の肺水腫では、低酸素血症がみられるが、過換気により二酸化炭素分圧はむしろ低下する。病態が進行して、肺胞内肺水腫になると換気不全となり二酸化炭素分圧が上昇する。
③診断
〔初期の肺水腫〕
- 初期は、聴診やX線に変化がないので、不穏と過呼吸の出現、動脈血ガス分析により診断する。
- 初期の動脈血ガスでは、酸素分圧と二酸化炭素分圧が共に低下、phは上昇する。
〔進行した肺水腫〕
- 進行した肺水腫では、断続音の聴取、泡沫状の痰、高二酸化炭素血症を伴う。
- 肺血管陰影の不透明化、さらに進行すると浸潤影(すりガラス陰影)
④治療
- 根本原因の治療
- 酸素投与、輸液制限、利尿、血管拡張薬・カテコラミン
- 重症例には、人工呼吸器管理
間質性肺炎
間質性肺炎は、肺胞の間質(壁)に炎症が起こり、繊維化することで、ガス交換に障害を与える疾患です。
①原因
術前から蜂窩肺や肺線維症を患っていたものが急性増悪する場合が多い。
正常な肺から突然発症する原因不明な場合もある。
②病態
肺胞の間質が、炎症・線維化して、肺胞壁画分厚くなり拡散障害・ガス交換障害を起こす。
③診断
呼吸困難、発熱、CRP上昇
胸部X線写真にてすりガラス陰影を示す。
④治療
酸素療法、副腎皮質ステロイドのパルス療法
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