機械的陽圧喚起(人工呼吸器)による呼吸器の影響
はじめに
人工呼吸器による喚起は、自然な呼吸と大きく異なります。自然の呼吸では、横隔膜が下がることにより、肺の周囲が陰圧になり肺が膨らみます。それに対して、人工呼吸では陽圧の空気を無理やり肺内に押し込むことで喚起をします。
このような人工呼吸による機械的陽圧喚起により、人間の生体にはどのような影響があるのでしょうか?できるだけ分かりやすく紹介します。
呼吸器の影響
人工呼吸器の陽圧喚起が呼吸器に与える影響は以下の5つです。とても大切なので必ず覚えてください。
なんでそうなるの?という方の為に、それぞれを順番に説明します。長いので、わかってる人は読み飛ばして下さい。
吸気ガスの不均等性増大
吸気ガスの不均等性というのは、それぞれの肺胞に送られる空気が、それぞれの肺胞により偏りができるということです。肺胞は、風船のようなものをイメージしてもらうとわかりやすいです。
それぞれの肺胞は、固い(膨らみにくい)肺胞や、柔らかい(膨らみやすい)肺胞があります。人工呼吸器による陽圧喚起では、柔らかい肺胞は大きく膨らみすぎたり、逆に固い肺胞はそれほど膨らみません。このような状態を、吸気ガスの不均等性増大といいます。
喚起血流比不均等性増大
肺におけるガス交換が効率よく行われるためには、肺胞と、その肺胞に接する血管の血流のバランスが釣り合っていないといけません。
血流がいいけど、肺胞が膨らんでいなかったり

肺胞が膨らんでいるけど、血流がすくなかったりすると

肺胞でのガス交換が効率よくできない
というのは簡単にイメージできると思います。
そして本題の人工呼吸器を使うと、喚起血流比不均等が増大する理由ですが、
陽圧の人工呼吸器を使用すると、胸腔内に高い圧力がかかります。それにより、心臓や静脈血管が圧迫されて、心拍出量が少なくなります。すなわち、肺胞に接する血管の血流が少なくなります。
また、肺胞は強制的な喚起により大きく膨らみます。それらの理由で喚起血流比の不均等が増大するわけです。
シャント率増加
シャントというのは、短絡(バイパス)という意味です。肺循環では、二酸化炭素を多く含んだ、静脈血が、肺を通過してガス交換して、心臓に血液が返ってきます。このとき、肺胞を通過せずに戻ってくる血液の割合をシャント率といいます。
下の図のように、肺胞があまり膨らんでいないところを血液が通過すると、血液が酸素化されません。このような、極端な例をシャントといいます。

人工呼吸をすると、このような広がりにくい肺が陽圧喚起により膨らむため、意見するとシャント率は、減少するのではないか?と考えられるかもしれません。しかし、実際にはシャント率は、増加してしまします。
理由としては、自発呼吸と、陽圧喚起では、横隔膜の動く部位が異なるからです。自発呼吸では、背中側、陽圧呼吸では腹部側の横隔膜が動きやすいのです。それにより、人工呼吸中では、腹部側の肺胞は、大きく膨らみやすく、背中側の肺胞は膨らみにくくなります。
また、人工呼吸器装着時は、仰臥位(おなかを上側に寝る)姿勢になっています。この姿勢では、重力により、おなか側の血流が少なくなり、背中側の血流が多くなります。上記の説明をわかりやすく図であらわすと以下のようになります。

このような、循環ではシャント率が増加するのがわかります。
死腔率増加
死腔とは、気管内でガスの交換に関与しない部位のことを言います。この場合は、肺胞は膨らんでいるけど、血流が少ない肺胞の部位のことを言います。
理由は、シャント率増加のところで説明した通り、下の図の通りです。
陽圧喚起と、仰臥位によります。
肺コンプライアンスの低下
肺のコンプライアンスとは、肺胞の膨らみやすさのことを言います。肺のコンプライアンスは、肺胞自体の状態に大きく依存しますが、肺胞以外に、胸郭の動きやすさなども影響されます。
自発呼吸では、胸郭が大きく動くことにより、肺胞が膨らみます。人工呼吸中では、胸郭の動きは少なくなるため、肺胞が膨らみにくくなります。したがって、陽圧喚起化では肺のコンプライアンスが低下するといわれるのです。
長くなりましたが、上記で機械的陽圧喚起(人工呼吸器)による呼吸器の影響の説明を終わります。
参考文献
第20回3学会合同呼吸療法認定士 認定講習会テキスト
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