今回は、肺胞のガス交換の仕組みについて学びます。
肺胞でのガス交換の仕組みをミクロな視点で理解できるようになりましょう。のちのち学ぶ、呼吸不全についてはこれらを理解していなければ応用問題を解くことが難しいです。呼吸療法の最も大切な分野なのでかなり丁寧に説明しますので、確実に理解できるようになってください。
それでは、さっそく始めましょう!
目次(クリックすると移動します)
PAO2を理解しよう
肺胞のガス交換を決める因子は、以下の4つです。
- PAO2
- 拡散
- 喚起血流非
- シャント
今回は、この4つのなかで『PAO2』について説明します。
PAO2とは
PAO2というのは、『肺胞気酸素分圧』のことです。
Pは、プレッシャーで圧力
Aは、Alveolusで肺胞
O2というのは、酸素分子の化学記号です。
具体的には、肺胞に入ってきた空気中の酸素の濃度のことです。98㎜Hgというように、mmHgという単位で表します。
(mmHgという単位の意味については、理解するのは少し難しいので今回は説明しません。とりあえず、ガスの相対的な濃度を表す単位ととらえておいてください。%のようなものです。1気圧の場合は、760㎜Hgが最高値となります。760㎜Hgが100%と同じ意味です。)

PAO2の求め方
それでは、PAO2の値を求めてみましょう。
問題
1気圧の大気中で、PaCO2の値が40㎜Hgの場合のPAO2の値を求めなさい。
(PaCO2=40㎜Hg、呼吸商=0.8とする)
求める式
PAO2は、肺胞の中の空気です。肺胞はとても小さいので、器具などを挿入して直接測定することはできません。計算により理論値を求めます。
- 重要
①PIO2=(大気圧-水蒸気圧)×FIO2
②PAO2=PIO2-(PaCO2/呼吸商)
式を1つにすると(②の式に①を代入すると)
③PAO2=(大気圧-水蒸気圧)×FIO2-(PaCO2/呼吸商)
③の式を丸覚えしていれば解けるのですが、式の意味を理解しておけば式を覚える必要はありません。
式の説明
圧力の単位は、いろいろありますが血液ガスを扱うときはmmHgという単位を使います。したがって、1気圧を㎜Hgに変換します。
すると
1気圧=760mmHgとなります。これは、決まっているので覚えなければなりません。これが、2気圧や3気圧になると
2気圧=760×2=1520mmHg
3気圧=760×3=2280㎜Hg
という感じに比例します。
(高気圧酸素療法などでの酸素療法では、このようにしてたくさんの酸素を供給しているのです。)
話がそれましたが、今回は海面の高さに人がいるとします。海面の高さでは、1気圧の圧力を受けるので、空気の濃さ(圧力)は760mmHgとなります。
まず、人が空気を吸い込むと760mmHgの空気が気道の中に入り込んできます。
口腔・咽頭内で空気は、加湿されます。気道内は、湿度が100%であり、水蒸気圧が47㎜Hgの状態です。
したがって、気道内に入ることができる空気は
760-47=713㎜Hg となります。
※棒の画像を挿入
713㎜Hgの空気の中には、窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素、水蒸気などが含まれています。
この中から酸素だけの濃度を求めます。

酸素は、空気中に約21%含まれます。
したがって、760×(21/100)=149mmHgとなります。
この149mmHg というのがPIO2(吸入気酸素分圧)であり、気道内に入った空気の酸素濃度を表します。
PIO2(149㎜Hg)はさらに、肺胞へと進んでいきます。
このまま全部の酸素が肺胞に入りたいところですが、肺胞の中には肺動脈から取り込まれた二酸化炭素が含まれています。その為、149mmHgの酸素が全て肺胞に入ることができません。PIO2から、二酸化炭素の量(PaCO2)を引いてやらなければなりません。
したがって肺胞に入ることができる、酸素濃度(PAO2)は以下の計算で求めます。
PAO2=PIO2-(PaCO2/0.8)
式に代入すると、
PAO2=149-(40/0.8)
PAO2は、99mmHgとなります。
なぜ、PaCO2を0.8で割っているのかというと、
人間は単位時間あたりに、消費するO2の量のほうが排出するCO2より多いからです。
肺胞のみで見ると、こんなイメージです。
※イメージ
酸素の消費が多くて、CO2の排出が少ないので、肺胞内に溜まるCO2が上がるということです。
その為、CO2が多くなるように補正しているのです。(わからなければ深く考えなくていいです。私も、完璧には分かっていません。)
ちなみに、この0.8というのは呼吸商です。食事内容により変わります。
呼吸商=単位時間当たりのCO2排出量/単位時間当たりのO2消費量
長々と説明しましたが、上の式の意味を順番に説明するとこのようになります。式と見比べながらこの文章を読むと理解しやすいと思います。
読んでもわからなかったという場合は、今は式を丸覚えしておけばいいです。
PAO2を求める例題
より理解を深める為に、PAO2を求める問題を出題します。試験でも出題されますので、余裕がある人だけチャレンジしてみてください。初めて、呼吸を学習する人は飛ばしてよいです。次のページに行きましょう。
<例題1>
人工呼吸器を装着している患者さんがいます。酸素濃度40%に設定しているとき、PAO2の値はいくらになるでしょう?
(PaCO2=60㎜Hg、呼吸商=0.8、1気圧とする)
今回は、少し応用問題です。人工呼吸により吸入空気の酸素濃度が40%になっていることに注意しましょう。
PAO2=PIO2-(PaCO2/呼吸商)
PAO2=(760-47)×(40/100)-(40/0.8)
まずは、PIO2を求めましょう。
PIO2=(760-47)×(40/100)=285
気圧は、1気圧なので、気道に入る空気は、760から水蒸気圧(47)を引いた713です。
この713の空気のうち、40%が酸素です。その為、40/100(0.4)を掛けた値がPIO2となります。
PAO2は、PIO2から、PaCO2/0.8を引いた値でしたね。
したがって
PAO2=285-(40/0.8)=235となります。
<例題2>
富士山の頂上に、立っている人がいます。この人のPAO2は、いくらでしょうか?
(頂上の気圧は0.6、PaCO2=40㎜Hg、呼吸商=0.8、0.6気圧時の水除気圧は30mmHgとする)
まずは、大気中の空気の濃度を求めましょう。大気中の気圧は、0.6と記述されています。この圧力は、地上の6/10です。その為、760×(6/10)で頂上の大気圧を求めることができます。
頂上の気圧=760×(6/10)=456mmHg
456㎜Hgの空気が気道に入りますが、気道内は水蒸気があります。
気圧が下がると水蒸気圧も下がりますが今回は、30と設定されています。なので大気圧から30を引きます。
そして、気道の中に入った空気のうち、酸素の割合は21%なので、(21/100)をかけます。(0.21をかけたのでもいいよ)
これが、PIO2になります。
PIO2=(456-30)×(21/100)=89.46㎜Hgが気道内に入った酸素分圧となります。
そして、次にPAO2を求めます。
PAO2は、PIO2から、PaCO2/呼吸商 を引いた値でしたね。
PAO2=89.46-(40/0.8)
PAO2=39.46mmHg
ということで、気圧が下がると取り込める酸素の量が非常に少なくなるということが分かったと思います。
PAO2の式まとめ
長々と説明しましたが、以下の式を覚えておけば大抵の問題は解けます。状況によって適切に値が代入できるようにしましょう。そして式の意味も理解できたら素晴らしいです。
PIO2=(気圧-47)×FIO2
PAO2=PIO2-(PaCO2/呼吸商)
今回の学習で、酸素濃度を上げればどの程度の空気を患者さんの肺胞内に届けることができるのか?ということが計算できるようになったと思います。
臨床の現場でも、酸素濃度を上げることによりどの程度肺胞に供給できる酸素がふえるのかとうのがわかります。治療条件を決める際にも役立ちますね。
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