アシドーシスとアルカローシスは、呼吸性と代謝性に分類されます。呼吸性の酸塩基障害の原因は、肺胞の喚起障害のみです。
それに対して、代謝性の酸塩基障害の原因は数多くの原因があります。今回は、代謝性の酸塩基障害となる疾患について説明します。
講習会テキストには以下の疾患が搭載されています。
代謝性アシドーシスとなる疾患
- 腎不全(糸球体腎炎、腎尿細管障害)
- 糖尿病(ケトン性、非ケトン性)
- 副腎不全
- 下痢
- 肝硬変
- 急性膵炎
- その他(末梢循環不全、白血病、悪性リンパ腫、敗血症、急性アルコール中毒、サリチル酸中毒、熱性痙攣)
代謝性アルカローシスとなる疾患
- 鉱質コルチコイドの過剰(クッシング,バーター症候群)
- 嘔吐(H⁺、K⁺、Cl⁻の損失)
- 電解質異常
利尿剤によるK⁺喪失
K⁺、Na⁺欠乏(細胞外アルカローシス、細胞内アシドーシス)
Cl⁻欠乏(尿細管のHCO³⁻の再吸収上昇)
試験では、『代謝性アシドーシスの原因として誤っている選択肢を選べ。』というような問題ですので、それぞれの疾患名だけ覚えておけば回答できます。
ただし、丸覚えではすぐ忘れてしまうと思います。
そこで、どのような機序でそうなるのかを簡潔にまとめたので余裕のある人は読んでみてください。
けっこう説明量が多くなりすぎたので何回かに分けて学習すると良いと思います。
目次(クリックすると移動します)
代謝性アシドーシスとなる疾患
腎不全
腎不全というのは、腎臓の機能が低下することを言います。腎不全は、原因により「糖尿病性腎症、糸球体腎炎、尿細管障害」などいろいろな種類があります。
原因はなんであれ腎不全では、腎機能が低下(不要物の排泄を低下やHCO³⁻の産生低下)するため、H⁺の排出が少なくなります。
したがって、腎不全では血液中のH⁺が上昇するのでアシドーシス(酸性)となります。
また、腎機能低下時に用いる、利尿剤は酸塩基代謝異常を合併する原因になることがあります。
利尿薬は種類によって、アシドーシスやアルカローシスの副作用があります。(参照)
アシドーシスの副作用があるものは、炭酸水素酵素阻害薬(ダイアモックス®)です。これは、近位尿細管でのHCO₃⁻の再吸収を阻害する作用があるので、HCO₃⁻の尿中への排出量が増えます。
血液中のHCO₃⁻はH⁺と結合して、体外に排出する作用があります。
※画像入れる
したがって、血液中のHCO₃⁻が下がると、H⁺の排出が減りアシドーシスとなります。
HCO₃⁻低下→H⁺の排出低下→アシドーシス(酸性)
糖尿病
糖尿病の重大な合併症として、「糖尿病性ケトアシドーシス(ケトン性)」と「非ケトン性高浸透圧昏睡」というものがあります。
糖尿病性ケトアシドーシスとは、血液中にケトン体という酸性の物質が増加する疾患です。
糖尿病患者がインスリン不足になると、血液中のブドウ糖をエネルギーに変えることができなくなり、高血糖になります。すると、体は、代償反応として脂肪を分解してエネルギーを作ります。
この脂肪を分解してエネルギーを作るときに副産物としてケトン体が作られます。
非ケトン性高浸透圧性昏睡は、糖尿病の合併症で発症する高血糖性昏睡です。薬剤の副作用や血液中のブドウ糖の急激な上昇により発症します。
ケトン体は、変化が少なく、NaCl、BUN、血漿浸透圧(350mOsm/L以上)、血糖が上昇(600㎎/dL以上)します。
血液中の浸透圧(参照:浸透圧とは)が上がることで、脳細胞が脱水を起こして障害され昏睡に陥ります。phは、アシドーシスとなります。
副腎不全(アジソン病)
アジソン病は、副腎皮質の機能低下を起こす難病です。
副腎皮質からは、コルチゾール、コルチゾン、アルドステロン、アンドロゲンなどの生命活動に重要なホルモンが分泌されています。
- コルチゾール
- コルチゾン
- アルドステロン
- アンドロゲン
アルドステロンは、Na・水分の再吸収を促進して、血圧を上昇させる効果があります。したがって、アルドステロンが減少すると、血圧低下・脱水となり尿量が低下します。
尿量が低下するとH⁺の排泄が減るので代謝性アシドーシスとなります。
下痢
腸液は、胃から流れる強い酸を中和するために、NaHCO³(炭酸水素ナトリウム)が含まれています。
下痢では、腸液(アルカリ性物質)が排泄されるため、アルカリ性となっています。
【補足】
NaHCO₃は、HCO₃⁻をつくる原料となります。
NaHCO₃→Na⁺+HCO₃⁻
したがって、NaHCO₃が減ると、体内のHCO₃⁻が減少するということですね。
肝硬変
肝硬変では、代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスの両方が発生します。
肝臓は、乳酸(C₃H₆O₃)を分解する主な臓器です。肝硬変により、肝機能が低下すると乳酸の分解が低下するので血中の乳酸が増加します。
乳酸は、phを下げる働きがあります。(代謝性アシドーシス)
また、肝機能低下によりアンモニアが上昇します。アンモニアは呼吸中枢を刺激して、過換気となります。
過換気になると、CO₂の排出が増えるのでPaCO₂が低下して呼吸性アルカローシスとなります。
このように、同時にアシドーシスとアルカローシスが発生するので肝硬変の場合は、phはどちらに変化するかははっきりと決まっていません。両方のバランスが取れると、phは正常範囲になるかもしれません。
(参考文献)
急性膵炎
急性膵炎による炎症は、全身に移行しやすくSIRSや多臓器不全を合併することがあります。細胞が炎症を起こすと乳酸の産生量が増加します。
その他乳酸アシドーシスをきたす疾患
末梢循環不全、白血病、悪性リンパ腫、敗血症、急性アルコール中毒、サリチル酸中毒、熱性痙攣
代謝性アルカローシスとなる疾患
アルカローシスは、H⁺の排出量が増えてアルカリ性になることです。原因となる疾患を順番に紹介します。
電解質異常
H⁺、K⁺、Cl⁻のいずれかが低下すると、アルカローシスに作用します。
- H⁺が低下するとアルカローシスになるのは説明するまでもないでしょう。
- Cl⁻の低下は、腎臓の尿細菅からHCO₃⁻の再吸収を促進して血液中のHCO₃⁻を上昇させます。HCO₃⁻は、H⁺を排出する働きがあります。
- 細胞外液のK⁺が低下すると、それを補うために細胞内液中のK⁺が細胞外液に移動します。また、移動したK⁺の代わりにH⁺が細胞外液から細胞内液に移動するという反応が発生します。(細胞内外の電位差を保とうとします)それにより、細胞内液H⁺が上昇、細胞外液はH⁺が低下、という反応が発生します。
検査では細胞外液(血液)が測定されるのでアルカローシスと表示されます。(下図参照)

低Kによるアルカローシス
ちなみにK⁺低下によるアルカローシスの場合は、代償反応がないので注意が必要です。なぜなら、先ほど説明したように細胞外液(血液)は、アルカローシスになりますが、細胞内液はアシドーシスになります。
呼吸中枢では、細胞内液のアシドーシスを検知してしまうので、「呼吸抑制によってCO₂を高める(酸性に訂正する)」というような代償反応が起こりません。
鉱質コルチコイドの過剰
鉱質コルチコイドは、副腎皮質で作られるホルモンのことです。
副腎皮質で作られるホルモンで代表的なものにアルドステロンというものがあります。
アルドステロンは、カリウムの排泄を増やす働きがあります。低K⁺は、アルカローシスに作用すると上でも説明しましたね。
嘔吐
胃液の主成分は、HCl(塩酸)という強い酸です。HClというのは、H⁺とCl⁻が結合しているので、HClが排出されると、H⁺が低下してアルカローシスになります。
利尿薬
ループ利尿薬(ラシックス®)、サイアザイド系利尿薬(フルイトラン)などは、K⁺やH⁺の排出を促進するのでphが上昇します。したがって、代謝性アルカローシスに作用します。
まとめ
どのような機序で、酸性やアルカリ性になるのかを理解しておけば頭に残りやすいと思います。学習するときは、なぜそうなるのかを考えるのが大切です。
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