
ARDSの定義
1.初めに
ARDSという概念は、1967年にAshbaughにより提唱されました。正式名称は、acute respiratory distress syndrome(急性呼吸窮迫症候群)です。窮迫(きゅうはく)とは、追いつめられるという意味です。
ARDSの病態を簡単に説明すると、心臓以外の原因(非心原性)の肺水腫のことです。具体的には、心不全以外の原因で、肺の毛細血管の透過性が行進して、血管から肺に水が漏れてしまう病態です。
今回は、ARDSの定義について紹介します。定義は、従来からある古いものと、2012年に新しく作られた定義があります。それぞれについて順番に紹介します。
2.従来のARDS定義
従来、ARDSの定義は以下の定義が使われていました。
急性肺損傷(ALI)とARDSの定義 | ||||
経過 | 酸素化 | 胸部エックス線 | 肺動脈楔入圧 | |
ALI基準 | 急性 | PaO2/FIO2≦300mmHg (PEEPの値によらず) |
両側性の浸潤影 (正面像) |
18mmHg以下 左房圧上昇の 臨床所見がない |
ARDS基準 | 急性 | PaO2/FIO2≦200mmHg (PEEPのレベルによらず) |
両側性の浸潤影 (正面像) |
18mmHg以下 左房圧上昇の臨床所見がない |
(第20回3学会合同呼吸療法認定士 認定講習会テキストより)
従来の定義は、1992年に作成されており、ALIとARDSを分別していました。しかし、ALIとARDSは同様の症状のため分別する必要性がないことから、2012年に新しいARDSの定義(Berlin定義)がつくられました。
3.新しいARDSの定義
世界中でも新しい定義が十分に浸透してきたことから、2015年の呼吸療法認定士の試験にも出題されました。新しいARDSの定義である『ベルリンの定義』について紹介します。
新しい定義は、Berlinで作られたことから、Berlin定義と呼ばれています。以下がその定義の内容になります。
2012 Berlin定義(JAMA2012;307:2526より) | |
発症経過 | 臨床的な障害や呼吸器症状の発現もしくは増悪から1週間以内 |
胸部画像 | 両側性の陰影で、胸水や無気肺、結節としては説明できない。 |
肺水腫の成因 | 呼吸不全が心不全や輸液過剰としては説明できない。 危険因子がないときは心エコーなどの客観的方法で静水圧性肺水腫を除外する。 |
酸素化の障害 | PEEP(もしくはCPAP)が5cmH2O以上で 軽傷 :200mmHg<PaO2/FIO2≦300 中等症:100mmHg<PaO2/FIO2≦200 重症 :PaO2/FIO2≦100 |
従来の定義は、PEEPの値によらず、PaO2/FIO2が200~300mmHgをALI、PaO2/FIO2≦200mmHgをAFDSとされていました。
新しい定義では、PEEPを5cmH2O以上かけた時のPaO2/FIO2の値によりARDSの重症度を分類することとなりました。ARDSとALIを分ける必要がないと考えたのです。
PaO2/FIO2の値による重症度分類が試験にもよく出題されるためしっかりと覚えておきましょう。
(参考文献)
第20回3学会合同呼吸療法認定士 認定講習会テキスト
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