ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の診断と人工呼吸管理法について

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ARDSとは

ARDSとは、『acute respiratory distress syndrome』の略称です。

英語の意味としては

acute:急性
respiratory:呼吸器の
distress:悩ます,苦悩
syndrome :症候群

 

となり、日本語では『急性呼吸窮迫症候群』といいます。

ARDSは、敗血症、肺炎、誤嚥、外傷、熱傷に合併して発症します。これらの疾患により、全身にサイトカイン・メディエータが過剰に作られます。

サイトカインは、炎症を誘発する物質で、肺の毛細血管を障害させて血管の透過性を亢進させます。それにより、肺胞内に水がたまって、低酸素血症に陥ります。

 

ARDSの診断

ARDSは、以下の3つが認められた場合をいいます。とっても大切なので必ず覚えてください。

①PaO2/FIO2≦200mmHg
②胸部エックス線にて、両側性の浸潤像
③肺動脈楔入圧≦18mmHgであり、左房圧上昇の臨床所見がない

 

それぞれについて、もう少し詳しく紹介します。

①PaO2/FIO2

PaO2/FIO2は、PaO2(動脈血酸素分圧)をFIO2(吸入酸素濃度)で割った値です。P/Fと記載されることもあります。

正常値は、覚えなくても計算すれば求めることができます。室内吸入下で、正常者のPaO2は80mmHg以上、吸入酸素濃度は、21%(0.21)です。

PaO2/FIO2の式に代入すると

PaO2/FIO2=80÷0.21≒400(mmHg)です。

したがって、健常者のPaO2/FIO2は、400mmHg以上です。
ARDSでは、PaO2/FIO2≦200mmHgです。ALI(肺損傷では)PaO2/FIO2≦300mmHgとなります。

ARDSとALIの区別にもPaO2/FIO2が用いられます。

②両側性の浸潤像

浸潤像とは、スリガラス影とも言われます。通常の胸部エックス線写真では、臓器や骨がない部分は真っ黒に映ります。ARDSなど、肺に水が溜まっていると、肺の部分がスリガラスのようにうっすらと白い影が映ります。ARDSでは、両肺にスリガラス像がみられます。

下の画像の左が正常で、右がARDSの写真です。

ards

(http://www.homeofpoi.com/lessons_all/teach/Firebreathers-Lung-or-ARDS-11_52_198より)

③肺動楔入圧≦18mmHg

うっ血性心不全でもARDSと同様に、肺水腫になり、胸部エックス線で両側性の浸潤像がみられます。その為、肺動脈楔入圧を測定することで、うっ血性心不全とARDSの分別をします。

肺動脈楔入圧は、左心房圧を反映します。したがって、肺水腫の原因となる、心不全では全身の、血液が鬱滞して停留することにより肺動脈楔入圧が上昇します。

そこで、肺動楔入圧≧18mmHgを心不全、肺動楔入圧≦18mmHgをARDSと判断します。

 

ARDSの人工呼吸管理

ARDSの気道確保の基本は、経口挿管が行われます。長期人工呼吸器装着が必要であれば気管切開も行います。ARDSでは、肺が固くなっています。すなわち、肺胞が膨らみにくくなっており、一生懸命呼吸しなければ、肺胞を膨らますことができないため、呼吸筋が徐々に疲労していきます。

そこで、人工呼吸器でPEEPをかけることにより、肺を膨らませやすい状態に保ちます。PEEPとは、呼気終末陽圧といって、呼吸の終わりに陽圧をかけることにより、肺胞の虚脱を防いで機能的残気量を増やす効果があります。

ただし、ARDSの時は、人工呼吸器による陽圧で肺損傷が起こりやすい状態になっています。

その為、ARDS時の人工呼吸器の設定のポイントは、肺胞に負担をかけないため、少なめの一回換気量の設定で、気道内圧を低めに保つようにします。

具体的には、1回換気量は、体重1kgあたり6~8ml/min、プラトー圧は30cmH2O以内にします。pHの低下によるアシドーシスの対応には、呼吸回数を増やしてCO2を排出することで対応します。

【2016.1.18追記】
※ARDSの新しい診断定義が作成されました。2015年の呼吸療法認定士の試験では、新しい定義が出題されています。『ARDSの新しい定義(ベルリンの定義)とは!?』にまとめていますのでご参照ください。


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